東京高等裁判所 昭和26年(う)3074号 判決
弁護人の控訴趣意は末尾添附の控訴趣意書と題する書面記載のとおりである。之に対し当裁判所は次のように判断する。
検察官が起訴状に記載された訴因又は罰条の追加又は変更をなし得るのは公訴事実の同一性を害しない限度において許さるべきことは論を俟たないところである。
今之を本件について考えてみると原審検察官は当初公訴事実として「被告人は昭和二十五年十二月下旬頃千葉県君津郡湊町湊野口肉店裏の湊川河岸において石村謙治所有の杉板二十枚(価格七千円相当)を窃取したものである」と訴因を明示して起訴したところ、被告人は原審第一回公判期日において「右板は自分が盜んだものでなく海岸に打ち上げられたものを拾い上げ之を他人に売却したものである」と陳弁し且つその後の審理の経過に徴して原審検察官は第四回公判期日において予備的に「被告人は昭和二十五年八月中旬頃千葉県君津郡湊川海岸に漂流してきた杉板二十枚位を不法に領得しこれを同年十二月下旬頃久保芳雄に対し金千二百円で売却して橫領したものである」として訴因及び罰条の追加をしたこと、並びに原判決は右予備的訴因罰条に基き原判示の如く犯罪事実を認定処断したものであること記録に徴して明らかである。
そこで右二つの訴因を対照して考えるに「昭和二十五年十二月下旬頃他人所有の板二十枚位が不法に領得されたことに被告人が関与した」という基本的事実において両者は全く同一性を保持しているのであり、一は右不正領得がその他人の所持を侵害して犯され従つて窃盜罪を構成するとしたのに対し他は同一物につきその占有を離れた他人の物を不正に領得したもの即ち刑法第二百五十四条の橫領罪を構成するとした差異あるに過ぎない。
従つて本件訴因及び罰条の予備的追加は公訴事実の同一性を害しない限度においてなされたこと明白であつてその適法であることは論なく右予備的に追加された訴因罰条に基き原判示犯罪事実を認定処断した原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の法令違反又は審判の請求を受けない事件につき判決をした違法は存しない。
所論は採用に値しない。